【人権理事会声明・和訳】「沖縄県における米軍基地問題に反対する平和的抗議活動に対する抑圧と琉球/沖縄の先住民族の権利の侵害」の和訳を公表しました。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、2016年9月13日から30日まで開催されている第33会期人権理事会に、声明沖縄県における米軍基地問題に反対する平和的抗議活動に対する抑圧と琉球/沖縄の先住民族の権利の侵害」を提出しました。

日本語訳も作成しましたので、全文をご報告いたします。

声明全文 第33会期人権理事会 ヒューマンライツ・ナウ書面ステートメント [PDF]

※英語原文はこちらhrn-written-statement-on-okinawa-for-33rd-hrc [PDF]


沖縄県における米軍基地問題に反対する平和的抗議活動に対する抑圧と琉球/沖縄の先住民族の権利の侵害[1]

 

1 米軍基地の新施設建設に反対する平和的抗議集会への抑圧

日本の南端に位置する沖縄県には34の米軍施設があり、総面積の約10%が米軍基地であるが、現在、新たな施設建設が進められ、これに反対する住民の抗議活動に対する深刻な暴力が続いている。

東村高江では、駐日米軍北部訓練場の新施設(ヘリパッド)の建設が日米両政府により予定されている。また、同県の辺野古でも、海を埋め立てて滑走路・軍港等の新施設建設が日米両政府により予定されている。これらの新施設建設の動きに対して、建設予定地付近では、地元住民等による座り込みなど平和的な抗議活動が続けられてきた。

日本政府は、これら抗議活動に対して機動隊を派遣し、過剰な警備を行うとともに、抗議に参加する一般市民を暴力的に排除している。昨年9月、海上保安庁の職員が辺野古での抗議運動参加の喉を掴み、大声で怒鳴りつけ、この暴行により参加者の男性は加療2週間の傷害を負った[2]。同年11月には、三日連続で、市民が海上保安庁の職員による過剰な暴力により身体的被害を受けている。[3]また今年1月20日、海上保安庁の職員が、同じく辺野古の海上での抗議活動に参加していた映画監督の景山あさ子に、船上で馬乗りになり、脚で体を押さえつけ、明らかに彼女のカメラを奪い取ろうとした。[4]

さらに今年7月19日以降、日本政府は全国から100名を超える機動隊を全国から動員して高江に配置し、[5]村民160名余の村を現在500ないし700名の機動隊が高江を包囲し、建設現場ゲート前に座り込む市民の身体を掴んで拘束し、実力で排除する暴行を繰り返している。その過程で複数の市民が機動隊に首を絞められ、72歳の女性が頭を打ち打撲で病院に搬送させられるに至っている。[6]さらに、機動隊の有形力の行使にわずかに抵抗しただけで不当に逮捕・拘禁される者も相次いでいる。[7]

さらに8月20日、機動隊は、東村高江での抗議活動を取材していた地元新聞社の記者の両腕を二度掴んで、背中を押して40メートル移動させ、停車させていた機動車両の間に押し込み15分ほどその身体を拘束した[8]

こうした過剰な有形力の行使は今も日常的に続いており、無抵抗の市民の生命・身体に著しい危険をもたらし、市民の抵抗の権利を侵害している。

 

2  米軍基地問題と先住民族の権利侵害

米軍基地の新施設建設等に反対する平和的抗議集会に対する抑圧は(単に集会の自由に対する侵害に留まるものではなく)、琉球/沖縄の先住民族の権利に対する侵害という側面も有している。

 

(1)沖縄県への米軍基地の偏在

米軍のみが使用する専用施設について、沖縄県には全国の74%が集中し ている[9]。2011年6月末の統計では、陸軍、海軍、空軍、海兵隊を合わせた在日米軍兵力の総数は3万6712人で、うち在沖米軍の兵力は70・4%に相当する2万5843人である。海兵隊は日本に駐留する1万7585人のうち沖縄県駐留は1万5365人を占め、割合は87・4%に達する[10]。なお、米軍は11年6月末を最後に在沖米軍の人数を公表しておらず、その後の統計は不明である[11]

 

(2)米軍基地建設の歴史的経緯

辺野古や東村高江など現在、米軍基地として使用されている土地については、1956年に強制接収か任意での土地の提供か、二者択一の選択を迫られた地元住民の苦渋の選択の結果として提供されたに過ぎず、自由な意思に基づく土地提供がなされたわけではない。

1972年に沖縄県の施政権の米国から日本への返還にあたって、米国政府と日本政府は、再び地元住民の権利を排除して沖縄県の施政権返還の条件に関する協定を締結し、沖縄県の基地の大半を無期限かつ自由使用とする特権が米軍に与えられた。

このように沖縄県の米軍基地は、太平洋戦争中及び戦後、琉球/沖縄の人々の土地に対する権利を排除して建設されたのであり、沖縄県の米軍基地の存在により、琉球/沖縄の人々の伝統的な土地及び天然資源に関する権利が侵害されてきたのである。

 

(3)米軍基地移設問題における権利侵害

辺野古では2014年7月1日に普天間飛行場からの移設に向けた建物解 体作業が始まり、その直後から移設に反対する人たちがゲート前での座り込みを始めた[12]。先祖伝来の領域である辺野古崎・大浦湾に対して、琉球/沖縄の人々との協議の場もなく同意もないままに、日本政府は新たな立ち入り禁止区域とし、沖縄県における抗議集会への参加者を暴力によって強制的に排除するようになった[13]。琉球/沖縄の人々は、先祖伝来の領域に立ち入ることも禁止され、許可なく立ち入った場合には逮捕されると脅迫され、実際に何人もの逮捕者が出ている。北部に位置する東村高江は、森に囲まれた自然環境豊かな環境で、希少な野生生物が生息しているが、集落を取り囲むように6か所の巨大なヘリパット基地建設が計画され、既に2か所は建設され、これ以上の基地建設が進めば騒音公害と環境破壊で、人々は、先祖伝来の土地と住まいを奪われることになる。

 

3 集会の自由の侵害および先住民の権利侵害

(1)集会の自由

今年3月の国連人権理事会で報告された集会結社の自由等に関する特別報告者が作成した報告書 (A/HRC/31/66[14])によれば、「集会は合法なものと推定されるべきであり、自由権規約21条で定められた制限のみに服する。」(パラ18)、「国が集会を制限するために国の安全及び公の秩序を援用する場合には、国は、当該脅威の正確な性質及び起こっている具体的な危険を示さなければならない。治安状況に一般的に言及するだけでは十分ではない。」(パラ31)、「法執行官による力の行使は例外的であるべきであり、集会は通常、力を行使せずに対処されるべきである。いかなる力の公使も、必要性及び均衡性の原則に従わなければならない。」(パラ57)、「いかなる力の行使も、暴力を用いている個人を対象として、又は差し迫った脅威を避けるために行われるべきである。」(パラ57)とされている。

自由権規約21条を中心とする国際基準に基づいたこれらの原則は、国連人権理事会決議においても、各国が十分に考慮するよう強く求められている(A/HRC/31/L.21[15])。

上記にみられるような海上保安庁や機動隊による集会参加者やジャーナリストへの有形力行使は、「必要最小限度」とは認められず、平和的集会の自由及び取材・報道の自由に対する重大かつ違法な侵害として許されない。

 

(2)琉球/沖縄の人々の先住民族としての権利

琉球/沖縄の人々が先住民族に該当することは、自由権規約委員会第6回日本政府報告書審査総括所見(CCPR/C/JPN/6)[16]及び人種差別撤廃委員会第3-6回日本政府報告書審査の総括所見(CERD/C/JPN/CO/3-6)[17]等において国連により認められている。

したがって、日本国政府は、「国連先住民族権利宣言」に基づき、琉球/沖縄の人々の「伝統的な土地及び天然資源に関する権利」(同宣言26条)及び、その「影響を受ける政策に事前に情報を得た上で自由に関与する権利」(同宣言19条)を保障する措置をとるべきである。さらに日本国政府は、軍事活動で土地又は領域を使用する前に、当該先住民族の人々と実質的な協議をしなければならない(同宣言30条)。

 

勧告
 よって、国際人権NGOであるヒューマンライツ・ナウ、IMADR(反差別国際運動),並びに沖縄国際人権法研究会は、日本政府に対して、以下の行動を行うよう勧告する。

 

  • 自由権規約21条を中心とする国際人権基準に基づき、辺野古及び高村における米軍基地移設・建設に反対する平和的抗議活動に参加する一般市民及びその取材を行うジャーナリストに対する過剰な警備及び暴力的な排除行為を直ちにやめること。
  • 自由権規約21条を中心とする国際人権基準に基づき、一般市民が米軍基地問題に反対する平和的抗議集会へ参加する権利を保障する具体的措置をとること。
  • 自由権規約19条を中心とする国際人権基準に基づき、米軍基地問題に反対する平和的抗議集会を取材・報道する権利をジャーナリストに保障する具体的措置をとること。
  • 琉球/沖縄の人々が先住民族であることを認めた上で、国連先住民族権利宣言26条及び18条に基づき、琉球/沖縄の人々の「伝統的な土地及び天然資源に関する権利」及び「影響を受ける政策に事前に情報を得た上で自由に関与する権利」を保障すること
  • 国連先住民族権利宣言19条に基づき、琉球/沖縄の人々に自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意(Free Prior and Informed Consent)原則を遵守する効果的な政策決定への参加機会を保障して沖縄県への米軍基地の偏在を解消すること。

 

 

 

[1] Joint statement of Human Rights Now (HRN), International Movement Against All Forms of Discrimination and Racism (IMADR), and All Okinawa Council for Human Rights.

[2] http://www.japantimes.co.jp/community/2015/02/09/issues/injuries-okinawa-anti-base-protesters-laughable-says-u-s-military-spokesman/#.V7_6tq3HTXs

[3] http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-176412.html

[4] http://www.japantimes.co.jp/community/2015/02/09/issues/injuries-okinawa-anti-base-protesters-laughable-says-u-s-military-spokesman/#.V7_6tq3HTXs

[5] http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/54490

[6] http://ryukyushimpo.jp/news/entry-343437.html

[7] http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/58894

[8] http://this.kiji.is/140199620190143997

[9] http://ryukyushimpo.jp/news/prentry-245387.html

[10] http://ryukyushimpo.jp/news/prentry-245387.html

[11] http://ryukyushimpo.jp/news/prentry-245387.html

[12] http://mainichi.jp/articles/20160706/k00/00e/040/236000c

[14] http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/RegularSessions/Session31/Documents/A.HRC.31.66_E.docx

[15] http://ap.ohchr.org/documents/dpage_e.aspx?si=A/HRC/31/L.21

[16] http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CCPR%2fC%2fJPN%2fCO%2f6&Lang=en

[17] http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CERD%2fC%2fJPN%2fCO%2f3-6&Lang=en