【世界の人権・DPRK】2006/09/15 朝鮮民主主義人民共和国の人権状況に関する特別報告者ヴィティット・ムンタボン氏の報告(国連総会決議A/61/349)

2006年9月15日に、朝鮮民主主義人民共和国(以下,「北朝鮮」という。)の人権状況に関する特別報告者のヴィティット・ムンタボン氏が,北朝鮮の人権状況について国連総会で報告しました。

  北朝鮮の人権状況に関する特別報告者の任務は、2004年に国連人権委員会決議で設立され,今回の報告は、主に2005年から2006年8月にかけての人権状況を扱っています。
 ムンタボン氏は、この報告の中で、北朝鮮が様々な人権条約に加盟していることを歓迎する一方で、北朝鮮には、人権の形式的な受容と実質的な履行の間に大きな格差があることを指摘しています。

  ムンタボン氏は,まず,食糧及び生命に対する権利についての北朝鮮の状況を報告しています。 同氏によれば,北朝鮮は,1990年代半ば頃から深刻な食糧不足にみまわれ,近年は食糧を人道的援助に頼っていましたが,2005年に政府が外国からの支援、特に市民社会からの支援の拒否を表明しました。世界食糧計画(WFP)については,2006年5月に最貧困層の1900万人への食糧援助を認められたものの,その量は,昨年の穀物50万トンから7万5千トンまで減らされました。
  さらに,同氏は,2006年7月のミサイル実験により人道支援が停止されること,貴重な資源が浪費される懸念があること,そして,2006年7月,8月に壊滅的な被害と犠牲者を出した大洪水の影響により,北朝鮮の食糧危機はさらに深刻化していると報告しています。このような状況にもかわらず,同氏のもとには,北朝鮮がWFPの援助の追加の申し出を拒絶したとの報告が寄せられています。

  次に,ムンタボン氏は,個人の安全に対する権利,人道的処遇に対する権利,平等権,裁判を受ける権利などについての北朝鮮の状況を報告しています。
  2004年に刑法や刑事訴訟法が改正されたにもかかわらず,政府の非民主主義的で弾圧的な性格から,同氏のもとには,政府によるこれらの権利の侵害が多く報告されています。また,同氏は,北朝鮮において,司法制度が独立性に欠け,政権の影響を強く受けていること,また,北朝鮮には,通常の裁判所の他,治安維持のための別個の「準司法制度」のようなものがあり、そこには独立した司法や、弁護士へのアクセスなどのような保障が及ばないことを報告しています。
  受刑者、特に政治犯の処遇について,同氏は,拘置所及び刑務所における劣悪な収容環境,拷問,非人道的で屈辱的な処遇といった国内刑法の規定に反する状況が広くみられることを指摘し,懸念を表明しています。

  ムンタボン氏は,日本、韓国やタイなど外国から人が拉致されていることなどについても触れ,日本人の拉致問題については,日本と北朝鮮の間で未だに交渉が続けられていることを報告しています。

  また,ムンタボン氏は,移動の自由、難民保護の問題については,北朝鮮国内の移動の自由が制限されているほか、近隣諸国に逃れた人が強制送還されていることをあげ、送還された人々について、特別報告者が北朝鮮に照会した通報に対して政府から特別報告者の権限・任務を認めない旨の回答があったことを述べています。同氏は,近隣諸国が,北朝鮮からの難民に対し,ノン・ルフールマン原則を遵守し,適切な保護を与えることの必要性を訴えています。

  自決権,政治参加,知る権利,表現・信条・良心・宗教の自由などの精神的自由については,前回の報告から進展がみられないとムンタボン氏は報告しています。
  自決権や政治参加は国家の不透明で非民主主義的な性質により妨げられ,また知る権利も国家による言論統制のため,真に保障されているとは言えないと同氏は指摘しています。
  宗教の自由について,同氏は,北朝鮮政府は,宗教の自由が自国において保障されているとの公式見解をとっているが,宗教の自由だけでなく生きる権利,人道的処遇に対する無数の脅迫があることを強調するインタビューに基づく最近の報告にみられるように,現実はそうとはいえないと述べています。

  このほか、ムンタボン氏の今回の報告では,北朝鮮において,女性の差別や女性に対する暴力,食糧危機に伴う子どもの栄養失調が深刻な問題となっていることなどが報告されています。

  報告は最後に、北朝鮮に対し,批准している人権諸条約を履行し、主要人権条約のうち未批准のものを批准し、それらを履行すること、外国からの人道支援の継続を認めること、人権を尊重するよう法律や制度を改正すること、許可なく国外に出る人を処罰しないこと、国連人権高等弁務官事務所の支援を求めることや、特別報告者その他の人権に関するモニタリング機関の訪問を認めることなどを勧告しています。また、国際社会に対して食料援助を必要に応じ提供すること、迫害のおそれのある国に強制送還しないというノン・ルフールマン原則を尊重するとともに、国外に逃れた人たちに対する支援の負担分担のために国際連帯を促進することなどを求めています。

全文は以下のURLより。 http://daccessdds.un.org/doc/UNDOC/GEN/N06/525/88/PDF/N0652588.pdf?OpenElement