【国際人権先例・CAT】2006/No.296 スウェーデン

E.V.I v Sweden

通報日

非許容決定日

文書発行日

通報番号

02/06/2006

01/05/2007

02/05/2007

No.296/2006

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/53eb6c22ce8d319bc12572f10053bebc?Opendocument

手続上の論点 

 

実体上の論点

拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(第3条)、

通報者の主張

 通報者は、アゼルバイジャンの大学で法律を専攻していたが、学生時代に政治活動に従事し、野党「Musavat党」に法律顧問として参加した。大学卒業後、通報者はオランダに留学して修士号を取得したが、アゼルバイジャンに帰国直後、スパイ活動の疑いで2日間拘束された。結局は嫌疑不十分で釈放されたが、通報者は拘束中に暴行を受け、その結果、現在に至るまで肝臓を患っている。釈放後、被害届を出そうとしたが、当局はこれを受け付けなかったばかりか、これ以上トラブルに巻き込まれたくなければ黙っているように言われた。更に通報者は、20021224日にアゼルバイジャンの弁護士会から追放された。

 200310月に実施された大統領選に際して、通報者は「Musavat党」の党首を支持して活発に選挙活動を行い、同年7月に再び拘束された。その際通報者は、彼の婚約者がアルメニア人とのハーフであることを理由に、アルメニア政府のためのスパイ活動を疑われ2日間勾留されたが、通報者の母親がマスコミに通報し、彼の逮捕は地元のテレビ局で報道された。

 釈放後すぐに通報者は結婚したが、結婚式は政府当局によって妨害され、彼の妻は暴行を受けた。そこで通報者と妻は、結婚式当日にロシア共和国のダゲスタン自治共和国に逃れ、そこからモスクワを経由してスウェーデンへ到着した。

 通報者と妻は、到着後直ちに一時保護を申請したが、20041222日、彼らの申請は移民局によって却下され、国外退去が命ぜられた。申請者らは、スウェーデンで生まれた子どもの分も含めて控訴したが、これも却下され、更に、人道上の理由による滞在も認められなかった。

 アゼルバイジャンへ強制送還された場合、従前の政治活動を理由に拷問を受ける恐れがあること、出国後申請者に逮捕状が出ていること等から、通報者はスウェーデン政府による強制送還は規約第3条に違反するとして委員会に通報した。

当事国の主張

・ 通報者の主張には一貫性がなく、客観的事実と異なる点も多く、信用できない。例えば、通報者は父親について、彼らがスウェーデンに着いた直後に警察官に襲撃され、20038月に病院で死亡したと供述していたが、その後のアゼルバイジャンで活動している国際的組織の調査の結果、父親は1996年に死亡していたことが分かった。また、同調査では、通報者は「Musavat党」の党員でないことも判明した。更に、勾留中に暴行されたという話しについても、インタビューを重ねる毎に話しが大げさになっており、肝臓疾患に関する診断書も提出されていない。

・ 通報者が提出した、「Musavat党」の党員証や、当局が発布したという逮捕状等も偽造であることが判明した。更に、弁護士会に所属していたこともない事実が分かった。

・ アゼルバイジャンは今日、欧州評議会に加盟し、いくつもの人権条約を批准し、国際NGOの活動も認めている。従って、アゼルバイジャンの一般的な人権状況は改善しており、野党の活動も合法化されていることから、アゼルバイジャンからの一時保護申請者を、一般的に保護しなければならない状況にはない。

・ 通報者の供述は上記のように信用性が認められず、拷問等を受けるという個人的リスクに関する立証は具体性を欠いている。また、仮に申請者が「Musavat党」の党員であるとしても、現在同党の活動は公式に認められているし、申請者が特に重要な地位にあるわけでもない。まして、通報者が活動していたという時期からは既に4年が経過し、その間、アゼルバイジャン政府は、多くの政治犯に恩赦を与えている。

委員会の決定

・ 委員会が一般的見解No.1で示した通り、通報者は、帰国すれば拷問を受ける危険があることについて実質的な理由を示さなければならず、またその危険は、個人的でかつ現在のものでなければならない。この点通報者は、スウェーデン政府が明らかにした事実(例えば父親の死の真相等)に対し合理的な反論をしていないし、また提出した各書類が真正であることについても立証していない。更に、アゼルバイジャンの当局による不適切な行為があったとの訴えについても、診断書等の客観的証拠を欠いている。

・ 規約3条は、当該個人が、拷問を受ける「予測可能で、現実、かつ個人的なリスク」に直面していることを要求しているところ、勾留中に受けた行為や、彼に対して発布されているとされる逮捕状等について、通報者の供述は十分に具体的であるとは言えず、また、事実を裏付ける証拠も十分でない。従って、上記リスクに直面しているとの通報者の主張は具体性を欠く。

 以上により、通報者を本国へ送還することは規約3条に違反しない。