【声明】「戦後70年にあたって」を発表しました。

ヒューマンライツ・ナウは本日は声明「戦後70年にあたって」を発表しました。

全文とPDFをお知らせ致します。

 

声明 「戦後70年にあたって」

                       

1 2015815日、日本は終戦から70年を迎えました。

日本は、先の侵略戦争で、アジア太平洋地域において未曽有の人命の犠牲を生み出しました。また、植民地支配を通じて多大な人権侵害により大きな犠牲をもたらしました。日本軍が犯した行為の中には、民間人の虐殺、日本軍「慰安婦」制度による性奴隷の強要など、重大かつ組織的な人権侵害行為が含まれ、当時の戦争法規にも反する戦争犯罪、人道に対する罪を構成する人権侵害も多くありました。

1931年以降の侵略戦争の発端は「満州事変」と呼ばれますが、これは、第一次世界大戦後国際連盟で「戦争」が制限され、次いで不戦条約でも自衛以外の「戦争」が禁止されたことから、宣戦布告で始まる正式な「戦争」には当たらないという趣旨で意図的に用いられた呼び方でした。しかし、日本の軍事行動は自衛のためのものではないとして国際連盟で非難され、日本は国際連盟を脱退します。

この後日本は、東南アジアや真珠湾を攻撃し連合国との戦争に突入しますが、1931年から1945年の間に日本が行った戦争が、国際法上許されない侵略戦争であることは疑うべくもありません。  

一方で、日本国内では、言論統制のもと戦争反対ということもままならず、大本営発表のもとで正しい情報も得られないまま、多くの若者が赤紙一枚で召集されて戦地に駆り出され、日本軍の多くの兵士が犠牲となりました。国内では沖縄における地上戦、本土空襲、広島・長崎への原爆投下等により、膨大な数の人々が被害を受けました。

こうしたあまりにも痛ましい犠牲は、戦争こそが最大の人権侵害を生み出すという痛切な教訓を日本人、そして人類に残しました。こうした教訓のもと、国連憲章は、広く「武力行使」を原則として違法とし、日本では、さらに徹底した恒久平和主義が採用され、憲法9条が戦争放棄を明記したのです。

そして、ファシズムと人種・民族差別、言論弾圧などの人権侵害が戦争と不可分であることの痛苦の反省から、人権保障のための国際協力は国連の責務となり、これに基づいて国連では、世界人権宣言や、数々の人権条約が採択されています。戦後70年に当たり、こうした過去の反省と決別のもとに今日があることを改めて確認したいと思います。

 

2 ところが、昨今、こうした歴史の教訓を忘れたかのような動きが日本政府から出てきていることに私たちは深刻な懸念を表明します。

戦後70周年を迎えるにあたり、私たちは、1) 侵略戦争下での人権侵害の歴史の歪曲が進みつつあること、2) 言論に対する抑圧が進みつつあること、そして3) 侵略戦争の反省のもとに制定された日本国憲法9条の恒久平和主義を変容させる動きが進んでいることに対し、強く反対します。

 

3 日本では侵略戦争下での人権侵害の被害者に寄り添った解決を行うこともないまま、加害の事実と責任を歪曲しようとする動きが急速に進んでいます。

安倍首相は1931年からの戦争が侵略戦争であることを正面から認めていません。

2015815日に出された安倍談話では、アジア太平洋地域と日本の戦争被害の事実は語られたものの、加害の主体としての日本の戦争責任に関する明確な言及はありません。

日本軍「慰安婦」制度をめぐっては、国連の幾多の勧告にもかかわらず、この問題について、被害者の納得するような謝罪、補償、再発防止などの包括的な解決策を講じることなく今日に至っています。「慰安婦」制度については、すでに1990年代に日本政府が行った調査でも、当時の日本軍が組織的に運営した制度であることが明らかになっている[1]にもかかわらず、安倍政権は、女性の連行の時点で強制があったかどうかという点にこだわり、日本の責任を否定するかのような立場を取り続けています。いわゆる吉田証言問題を機に、「慰安婦」募集の強制性、さらには「慰安婦」問題の存在それ自体を否定する動きが、政府与党内で強まっています。しかし、女性たちの募集・徴用が強制連行であると否とを問わず、意に反して「慰安婦」とし、監禁して性奴隷にしたことが重大な人権侵害であること、これに旧日本軍が関与したことに変わりはありません。 

政府調査後の1993年の「河野談話」[2]では、「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」としていますが、そのような取組みもほとんどなされていません。

歴史教科書からは、日本軍「慰安婦」問題に関する記述は消えつつあり、慰安婦問題以外でも、過去の侵略戦争で犯した深刻な人権侵害に対する歴史の記述が適切に記述されているとはいえません。安倍政権下の教科書検定で「慰安婦」「強制」などの記述が大幅に削除される事態が始まっています。こうした動きは2016年からの検定基準改定後、さらに強まることが深刻に憂慮されます。さらに、日本政府は、米国出版社にまで歴史教科書中の「慰安婦」問題の記述修正を求めるなど国境を越えて歴史修正の動きに乗り出しています。

こうした歴史修正主義と過去の正当化は、歴史に対する痛苦の反省を没却させようとするものにほかなりません。

戦後50年にあたり、ワイツゼッカードイツ大統領(当時)は「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」と演説し、ドイツ国民に対し、ナチス・ドイツの過去をありのままに見つめる勇気を持つよう求めました。現在の日本政府の歴史への向き合い方がこれと対極にあることは極めて遺憾です。

 

4 私たちは、日本国憲法9条の恒久平和主義を変容させる動きが進んでいることに深刻な懸念を表明します。

今年5月、いわゆる安全保障法案が上程され、7月には、多数の市民の反対にも関わらず、衆議院で同法案が採決されました。

安全保障法案は、憲法上これまで許されなかった海外での武力行使や、国際紛争においての武力行使と一体化した兵站支援等を行うことを内容としており、憲法9条に違反することは明白です。[3]

日本は第二次世界大戦で、他国への侵略により多大な人権侵害の犠牲を引き起こしたことの反省のもとに憲法9条により戦争を放棄し、以後、海外で武力行使を一度もせず、非軍事の国際貢献に徹し、世界から信頼を得てきました。ところが、今回の法案が成立すれば、恒久平和主義に立脚した外交・援助政策の基本は変容を迫られ、日本は紛争に対する中立的な援助者・仲介者でなく、他国への軍事介入者、侵略者、殺戮の当事者になります。私たちは、日本政府が痛苦の歴史のうえに獲得した恒久平和主義を転換し、ふたたび戦争への道を進み、他国への軍事介入によって新たな人命や人権の犠牲を生み出すことを決して容認することはできません。

 

5 私たちは、言論の抑圧などの人権抑圧が日本でも進みつつあることにも警鐘を鳴らします。201412月には市民の知る権利を大幅に制限し、報道機関に厳罰をかす特定秘密保護法が施行され、報道機関への政府・与党からの圧力・介入が続いています。[4]

ナショナリズムが台頭し、国が多様な価値観や反対意見を封殺し、メディア等の言論への統制や自粛が進み、市民の知る権利が奪われるとき、無謀な戦争になだれ込むことは過去の歴史が示しています。さらに、一旦戦争が開始されれば、戦争遂行を理由として、人びとの基本的人権は容赦なく奪われてしまうことも、先の侵略戦争が示しています。

安倍談話は、「自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げるとして国際貢献を志向していますが、過去の人権侵害とその責任を直視せず、戦後の立脚点を忘れ、足元における日本での言論抑圧などの人権政策を省みないならば、「人権」の名の下の国際貢献がひとりよがりな誤った方向に進む重大な危険をはらむことを、私たちは指摘せざるを得ません。

 

6 戦後70周年にあたって、私たちは日本政府に対し、過去の侵略戦争で犯した人権侵害の事実および、日本に責任の所在があることを明確に直視してこれを認め、解決に向けた努力をすること、歴史修正主義のような恥ずべき挑戦と明確に決別すること、過去の過ちを決して繰り返さないようあらゆる努力を怠らないことを求めます。

そして、現在進めようとしている立憲主義違反・憲法違反の安全保障法案を白紙撤回し、戦争と歴史認識、言論介入に関わる一連の政策を真摯に見つめ直すことを求めます。

私たちは、現在日本で起きている状況について、真に憂慮し、先の戦争からもう一度学び直した上で、平和こそが人権尊重の礎であることをここに確認し、基本的人権の保障、民主主義、平和主義が今後も堅持されるよう強く求めます。                           

以 上



[1] デジタル記念館
慰安婦問題とアジア女性基金http://www.awf.or.jp/6/document. html

[2]
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

[3] 詳細は、ヒューマンライツ・ナウ 安全保障法制に反対する声明http://hrn.or.jp/activity2/product/statement/post-333/

[4] 詳細は、ヒューマンライツ・ナウ「政府・政権与党による言論の自由への介入に抗議する」http://hrn.or.jp/activity2/area/cat147/post-337/