【報告書】価値の外交:カンボジアの最大援助国たる日本政府は、カンボジアに対し、人権の保護と促進を求めるべき


価値の外交:カンボジアの最大援助国たる日本政府は、カンボジアに対し、人権の保護と促進を求めるべき
—– カンボジア支援国会合(2007年6月19-20日)を受けて:外務省が改訂中のカンボジア国別援助計画に対する提言


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【東京―2007年6月20日】

人権など「普遍的価値」を基礎とする地域を作る「価値の外交」 を柱とする日本政府は、その援助政策・実施を通じ、カンボジア政府に対し、カンボジアの人々の人権を保護・促進するよう求めるべきである。人権NGOヒューマンライツ・ナウ(本部東京)は、本日、人権に基づく外交政策の実現を求め、カ ンボジア国別援助計画についての提言「人権の実現による人間の安全保障を求めて」(PDF)(46頁)を外務大臣宛に送付した。

人権NGOヒューマンライツ・ナウ(本部東京)の事務局長 伊藤和子弁護 士は、今月19日から20日にかけてプノンペンで開催されているカンボジア支援国会合(Consultative Group Meeting on Cambodia)を機会に、「カンボジアは、経済援助を受ける際に、何度も、人権やよい統治(グッド・ガバナンス)、法の 支配を実現すると約束した。しかし、未だ実現されていないことが多い。その代償を払わされているのはカンボジアの人々であ る。最大の援助供与国である日本は、責任感をもって、カンボジア政府に対し、人権の保護と促進を求めるべきだ。」と述べた。 例えば、2004年、カンボジア支援国会議とカンボジ ア政府の約束の中で、ガバナンス(法の支配、透明性、説明責任、汚職防止)に関わるモニタリング項目が指標として設定されたが、残念ながら、これらの内容は必ずしも実現されていない。

昨年11月、麻生太郎外務大臣は、人権、民主主義、法の支配などの普遍 的価値に基づく「価値の外交」を進めると宣言[1]し、「人 権・民主主義外交の新たな展開」[2]を行うと している。麻生大臣は今年1月の外交 演説でも、「価値の外交の実践は、先進民主主義国として、我が国の責務であると考えます。我が国が主張してきた『人間の安全 保障』実現にも資するものです。」[3]と述べて いる。

日本政府は、この言葉を単に外交のレトリックに終わらせるべき ではない。真に一人ひとりの人間の尊厳が守られる国際社会を作り出す政策として、外交の中で人権を主流化し、戦略的に具体化 するべきだ。

外交政策の中でも、援助政策での人権の主流化は重要である。中 でも、国別援助計画は、外務省が、被援助国の5年間にわたる援助計画を示すものであり、この中で人権が主流化されることは必須である。 そこで、ヒューマンライツ・ナウは、近々改定が予定されているカンボジアの国別援助計画(現行のものは平成14年2月作成[4]。 平成18年度に改 訂が予定[5]されてい たが、未だ改定作業は初期段階にある)について、改定にあたっての意見書「人権の実現による人間の安全保障を求めて」を発表 したものである。

ヒューマンライツ・ナウは、本提言書の中で、日本政府に対し、 被援助国の人権状況を的確に把握・公表し、政策へ反映すること、人権に基づく援助政策(権利に基づく開発へのアプローチ、rights-based approach to development)を採用すること、日本の援助が人権侵害を起こすのを回避・予防すること、説明責任を履行することなどを求 めた。

また、新たに取り上げることを検討すべき援助課題の例として、 以下のような支援を提言した。

汚職 撲滅のため
反汚職法、情報公開法、内部通報者保護法、政治資金規制法などの整備、監査機関の活動支 援

独立かつ公正な司法権確立のため
司法官職高等評議会の改革に関する法及び裁判官・検察官の地位に関する法の制定、裁判外 紛争解決手続(ADR)の充実・パラリーガル養成研修などの法律分野の人材育成支援、人権NGOの能力強化・市民向けの人権教育など国民のアクセス権を実質化するための法分野に関連し たエンパワーメント型支援、貧困層の法律扶助の実質的な担い手となっている人権NGOに対する財政・技術支援

自由かつ公正な選挙制度のため
報道の自由を実現するための支援、表現の自由・政治活動の自由・集会・結社の自由を実現 するための技術援助・トレーニング等

トランジショナル・ジャスティス実現のため
クメール・ルージュ法廷が国際基準に沿い、かつ、カンボジア国内で法的効力をもつ法律を公正に適用した法廷となる ように監視・支援をすること、クメール・ルージュ法廷が被害者にとって真の正義の実現となるよう財政面を含めた支援をすること、責任者の刑事訴追のみならずより広いトランジショナル・ジャスティスの視点からの支援を 行うこと

脆弱性への配慮
カンボジア政府が避難民・身体障がい者・復員軍人といった紛争によって影響を受 けた人びと、子ども、高齢者、女性、エスニックマイノリティ、都市貧困層等が特に脆弱な立場におかれていることを的確に認識し適切な対策をとるよう十分働きかけ、カンボジア社会でこの問題が十分に共有される よう支援をすること、女性や子ども、障がい者、先住民族等の脆弱な立場にある人びとに対するエンパワーメントを目的とした支 援を行うこと

開発プロジェクトの実施に伴う移転・再定 住について
カンボジア政府の移転政策や法律 を整備する支援、個々の移転計画の策定及び評価等の能力強化についての支援、移転・再定住の当事者である住民及びNGOが開発プロジェクトの全過程に参 加することの重要性を踏まえた市民社会組織に対する支援

また、カンボジア政府が、人権の保護・促進、ガバナンスの向上 を誠実に行っているか、第三者の立場から監視する市民社会組織は欠かせない。よって、上記あらゆる分野において、市民社会組 織に重点的な支援を行うべきである。

近年も、カンボジアの人権状況はよくない。とくに、野党活動 家、人権NGO職員、労働組合活動家に対する逮捕などの脅迫行為が頻発しており、これはカンボジアの人権の発展を深刻に 脅かしている。[6] そうし た中、先週6月13日から16日まで、 フン・セン首相が来日し、安倍晋三総理大臣と会談して日・カンボジア投資協定に署名したほか、安部総理は、「今後3年間、メ コン地域を経済協力の重点地域とし、カンボジア及び地域全体に対するODAを拡充す る」とした。

伊藤和子事務局長は「日本政府は、カンボジア政府への支援・関 係をより強めようとしている。しかし、人権政策に無批判な支援は時に有害である。人権侵害に対してはきちんと声をあげ、人権 を保護・促進する援助を行うべきだ。それが、カンボジアの人々の人間の安全保障のために必要だ。」と述べた。


[1]大臣講演:日本語版: http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/18/easo_1130.html
[2]例え ば、外務省主催シンポジウム「自由と繁栄の弧をめざして―日本の人権・民主主義外交の新た な展開-」(2007年2月24日、於・国連大学)
[3] http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/19/easo_0126.html
[4] http://www.mofa.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/enjyo/cambodia._h.html
[5] http://www.mofa.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/enjyo/5_yotei.html
[6] 詳しくは、ヒューマンライツ・ナウが2006年12月10日国際人権デーに出した声明を参 照されたい。(http://www.ngo-hrn.org/topics/061210.html)