【国連イベント報告】 「国連人権組織による平和活動の説明会」(”Briefings by heads of human rights component of peace operations”)

4月15日にNY国連本部で、UNAMI(国連イラク支援団)、MONUSCO(国連コンゴ民主共和国ミッション)、MINUSMA (国連マリ多元統合安定化ミッション) の代表者による平和活動の説明会が、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)とウルグアイ国連代表部の共催で開かれました。国連外交官を主な対象として開かれたこの説明会には、OHCHRから市民団体への参加も呼びかけられ、ヒューマンライツ・ナウNY代表も出席しました。

紛争はヒューマンライツ・ナウの活動分野のひとつです。罪もない市民の命を奪う紛争は、世界各地で多くの深刻な人権侵害を生み出しています。紛争による人権侵害への責任追及や紛争をなくすための取り組みにおいて、人権的アプローチが果たす役割や効果はどういったものなのでしょうか?

 

平和活動の人権組織

国連の人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、同じ国連の平和活動局(DPO)、政治平和構築局(DPPA)、活動支援局(DOS)と協力して平和・保障問題に取り組んでいます。1999年以来、平和活動(Peace operations)に人権組織が体系的に融合させられるようになりました。国連平和活動の人権組織の役割は、国際人権法や国際人道法の違反の記録・防止・追跡です。活動内容を細かく分けると、以下のようになります。

  • 人権の監視と調査
  • 国連安全保障理事会や公共への報告
  • 早期の警告や人権活動家を含む市民の保護
  • 市民社会や国内当局のキャパシティ・ビルディング
  • 軍や警察や法執行のトレーニング
  • (抑制後などの)移行期正義、罪を問われないこと(アカウンタビリティ)への取り組み
  • 立法府・法の支配の改正
  • 国連人権デュー・ディリジェンス・ポリシー
  • 平和協定への支援

現在では、コソボ、リビア、ハイチ、ソマリア、スーダン、イラク、マリ、アフガニスタン、南スーダン、コンゴ共和国、中央アフリカのために特別に設置された12の国別ミッションの他に、シリア、ブルンジ、ボスニア・ヘルツェゴビナなどを含む11ヶ国でも国連平和活動が展開されています。今回の説明会には、そのうちの3つのミッション(イラク、マリ、コンゴ)の人権オフィスの代表者が参加しました。ミッション内の人権オフィスがどのように他の分野(政治、人道支援、開発、平和支援など)と融合されるのか、各オフィスの活動内容を通して共有されました。

UNAMI(国連イラク支援団)

UNAMI人権オフィス代表からは、イラク政府や司法機関、市民社会、地域社会との連携についての説明がありました。ISILのテロリスト政権下での極度な苦しみからの傷を癒し、いま歩み始めようとしている国にとって、UNAMIの活動は関連性の高いものです。アカウンタビリティ、公正な裁判、拷問の防止、市民の保護、女性や子どもを含むマイノリティの権利などの分野に焦点を当てており、社会的結合の構築、暴力的な過激主義の防止、などの分野における国連の活動にも貢献しています。

防止は重大不可欠なものです。イラク国内のISILが敗北したことによって、テロ威嚇がなくなったわけではありません。ISILの過激メッセージに弱い地域社会の構造の多くの要素が、まだ残ったままです。2017年のISIL軍の敗北以来、市民の死傷は大幅に減っりました。今年2019年の1月から3月に記録された死傷者は303人です。2014年と2015年の同時期に記録された死傷者数5000人と比べると、ずっと低くなっています。これからもUNAMIは死傷を記録していきますが、新しい攻撃パターンを把握して早期警告を鳴らすことが重要になっています。

司法行政における人権保護は、紛争防止や社会的結合の構築にとってパワフルな道具になります。ISILの残虐行為の加害者の罪を問うことは、イラク社会に加えられた危害に対応する上で重要な鍵です。同時に、ISILがイラク国内で支援を得るまでの経過や要素に対し、イラク政府が確固たるステップを踏み出さなければなりません。ここで言う要素には、一定のグループへの偏見や軽視、司法行政内の弱みなどが含まれます。

この過去4か月でUNAMIチームは、200以上のISIL裁判の監視(モニタリング)しました。その中には、少年裁判所での聴取や捜査の聴取セッションなども入ります。それで判ったことは、イラク国内の枠組みに設置された司法手続き上の問題です。弁護の権利に対する尊重は広範囲にわたった無視され、拷問や虐待によって自白を引き出す疑いも多々あり、それらが死刑に繋がっているケースもあります。また、裁判所はISILのメンバーや関係者というだけで、被告人を反テロリズム法(Anti-Terrorism Law)の下で裁いています。これらの被告人の多くは、ISILに野菜を売ったり、ガソリンスタンドでISILの車に給油したことにより、ISILへサービスを施した罪に問われた人たちです。その他は、名の知られたISIL戦闘員の家族などです。これらのケースの多くでは、殺人など凶悪犯罪に関わったことを示す証拠が提出されることはありませんでした。こうした行為は、一定のグループの人々に対する集団的処罰の一種と受け取れることもできます。

公正な裁判のスタンダードの適用を促す上で、人権の役割は重大です。それに関してのUNAMIの取り組みは、大きく分けて2つです。一つ目は、デュー・プロセスと公正な裁判の国際スタンダードの促進のアドボカシーです。ISILによる犯罪の被害者の権利とアカウンタビリティと、被害者の辿った運命や真実を家族が知る権利を保証するためです。2015年から2016年にかけて行われたISILの一掃オペレーション中に失踪した1500人の少年や男性の行方はまだ分かっていません。

二つ目は、監視(モニタリング)とアドボカシーを通して、一定のグループの人々に対する恣意的あるいは差別的な司法プロセスの実行を防止することです。過去にそうだったように、軽視されたり差別を受ける人々の国に対する不満は、ISILの人気の上昇に繋がるからです。アカウンタビリティを促進する上では、UNITAD(国連ダーシおよびISILによる犯罪のアカウンタビリティ促進調査チーム)と密接に組んで活動しています。ISILによる戦争犯罪、人道に反する犯罪、虐殺のアカウンタビリティのためイラクをバックアップするのがUNITADの仕事です。例えば、ISILによる性暴力の被害者は何千人といます。しかしながら、実際にイラクの法廷で裁かれたケースはまだありません。性暴力を含む深刻な国際犯罪を扱うようにするための法改正を目指すUNITADを、UNAMIも支援しています。

女性の権利の促進、特に法改正は、UNAMIの人権オフィスの中心的プライオリティの一つです。ドメスティック・バイオレンスを犯罪扱いする国レベルの法律がイラクにはまだ存在しないため、女性や少女の権利、ドメスティック・バイオレンスの被害者の権利は充分に守られていません。ドメスティック・バイオレンス反対法案の実施に向けて、UNAMIは市民社会、女性の権利団体、国際社会の間での調整をしたり、イラク政府に働きかけたりしています。法案の草稿は進行中ですが、その先には長い道のりが待っています。例えば先週は、イラク刑法第41.1条の廃止を訴えた議会代表者のケースが最高裁によって退けられました。この刑法は、男性が配偶者である妻を処罰あるいは懲らしめる法的権利を与えるものです。ジェンダーに基づく暴力を厳重に禁止する憲法に反するかどうかの点が争われましたが、第41.1条は夫婦間の体罰・暴力には触れておらず、刑法の差別的要素は最高裁で認められませんでした。この件に関しては、UNAMIはアドボカシーを継続していきます。ジェンダー平等のレベルが高い社会が、暴力的な過激主義の手中に落ちにくい傾向があるのも、偶然からです。

武装紛争の影響を被った子どもたちに関しては、ISILと関連のある家族のいる子ども、特に拘束されたり国内難民キャンプに母親といる子どもたちに対する解決道を見つけるために、保護に努める機関や団体と連携と図っています。これにも、イラク政府のアクションが求められています。ISILメンバーの妻や子どもたちの自由を制限するなどにしても、法的な透明性のあるプロセスの下でされなければいけません。また、ISILにリクルートされた子どもたちは、更生・社会復帰にフォーカスした法的手続きを伴う少年法の国際スタンダードによって扱われなければなりません。

新しいプライオリティには、未成年者も含む拘留や拘留施設の監視があります。それに並んで、イラク政府による拷問や非人道的扱いの禁止に関連した草案や法律の更新にも力を入れていきます。また、拷問による強制的な自白を減らすためにも、若者をトレーニングするなどの可能性や方法を検討中です。

MONUSCO(国連コンゴ民主共和国ミッション)人権オフィス

選挙が終わったばかりのコンゴ民主主義で活動するMONUSCOからは、複雑な政治的プロセス、民主的スペースなどに関しての説明がありました。コンゴでは人権侵害ケースの報告が2018年に上昇しました。人権侵害の原因は大きく分けると、一つ目は、選挙に関連するデモなどに対する暴力や弾圧と、民主的スペースの規制によるものです。二つ目は、紛争地域におけるミリシア武装グループと軍事行動によるものです。報告されている人権侵害ケースの79%は紛争地域で起こったもので、その半分以上は当局の役人などによるものです。

2019年1月から、僅かながら民主スペース関連の人権侵害は下降が見られました。新大統領が初めて取ったステップは、政治犯として刑務所に入れらた人々を釈放することでした。人権に対する義務を行動に移すこと、罪が罪として問われるための闘い、移行期の正義などがMONUSCOのフォーカス分野です。東部とカサイ地域では、多くの市民が武装グループと政府軍両方から攻撃の的になっています。

市民の保護はトップ・プライオリティです。現地の各オフィスの人権エキスパートは、紛争関連の性暴力被害の対応もしている他、人権活動家のトレーニングや、市民への攻撃などをに対する早期の警告などもしています。今後の方策としては、国の存在をアピールする地域・国レベルのアドボカシーを、軍や市民や当局と共同で展開するなども視野に入れています。

国連人権デュー・ディリジェンス・ポリシーは、ミッション上の重要なツールです。コンゴ防衛・治安部隊と共同活動する際は、MONUSCOによるリスク・アセスメントと緩和方法が市民保護の手段の中に取り入れられます。市民、軍隊、各分野のエキスパートが一緒に立てる長期行動プランは、アドボカシー、公務員に向けた国際人道法や人権スタンダードに関するトレーニング、市民の保護ネットワークの強化、メディアやコミュニティのエンゲージメント活動、司法局との共同捜査などが含まれます。このパッケージは、リスクを背負った市民を保護するだけでなく、国の市民保護のためのキャパシティ強化にも繋がります。

市民の保護において重要な要素は、人権侵害の加害者の罪が問われること(アカウンタビリティ)です。特に軍事裁判は、全ての司法プロセスで人権オフィスがサポートを施します。また、武装グループによる深刻な人権侵害の疑いも、捜査・起訴のための司法局による追跡が入ります。MUNUSCO人権オフィスのサポートが加わった共同捜査チームとコンゴ軍の連携は、数々のコンゴ民主共和国政府軍(FARDC)や警察官による性暴力や殺人犯罪の有罪判決につながっています。このプロセスでは被害者や目撃者の参加が重要であると同時に、MONUSCOでは個人的保護プログラム(Individual Protection Program)を通して保護を施しています。これによって、長い間犯罪者の罪が問われることのなかった環境でも、正義は可能なのだという強いメッセージが発信されます。

武装グループ、ミリシア、警察、軍などによる紛争関連の性暴力被害ケースは、MONUSCOが記録するだけでも膨大なものです。それらの被害者には、ドナーから提供される資金と軍に提供されるセキュリティと共に、MONUSCOが法的・医療的・精神的援助を施します。パートナー団体には、ノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師率いるパンジー財団(Panzi Foundation)も含まれています。

MONUSCOは、紛争における性暴力に対する方策を初めて発展させたミッションです。MONUSCOによる方策は、コンゴのジェンダーに基づく暴力の方策に取り入れられている他、政府が始めた性暴力ゼロ・トレランス・ポリシー(Zero-tolerance policy)などにも影響しています。2018年には、66人のコンゴ民主共和国政府軍(FARDC)司令官が、紛争関連の性暴力を許さないという内容の誓約書に署名しました。また、2019年の3月には、残虐な暴力の記憶がまだ新しいカサイ地域で「2年計画」をローンチしました。国連開発計画(UNDP)との共同で、国連の平和構築委員会(Peacebuilding Commission) の資金援助によるこのプロジェクトは、法的プロセス、地域的ダイアログ、調停プロセスを含んだ移行期の正義に必要な要素を盛り込んだもので、正義へのアクセスおよびに紛争で分断した地域社会の修復を支援するのが目的です。MONUSCOによる市民権や政治的権利の分析結果は、2018年12月の選挙の前後に予想される暴力の未然防止するアドボカシーにも貢献しました。政治・社会的に不安定な状況下のコンゴで話し合いを促進させ、民主的スペースを切り開くために、これらのエンゲージメントは市民社会メンバーや公共機関にも広げられています。まとめると、UNAMIの最大ミッションは、イラク政府が国際人権法の下での義務を果たせるように支援することなのです。

MINUSMA (国連マリ多元統合安定化ミッション) 人権オフィス

MINUSMAの人権オフィス代表からは、セキュリティ上の威嚇に晒された不安定な現在のマリにおける対テロ対策などの説明がありました。2018年の説明会以来、極度に不安定な状況は変わっていません。マリ中央部の人権問題は大きく分けると、武装過激主義グループの活動、マリ防衛セキュリティ軍の対テロ行動、地域社会の武装自己防衛グループによる暴力の3つの分野になります。今年の1月から現在まで、少なくとも50件の武装防衛グループによる人権侵害と、50件の地域社会内の暴力が記録されています。加害者を割り出すのは非常に困難な状態です。これらの大半は、武装自己防衛グループや伝統的な狩猟民による村々への攻撃中に起こったものです。今年1月にも、狩猟民グループが部族を上げて遊牧民族フラニの村への攻撃を組織・実行したと見られる事件がありました。男性31人、女性2人、子ども2人が命を奪われ、103世帯が焼かれました。

グループ・民族間の非武装化プロセスの交渉などが、武装対立に発展したりもしています。狩猟民グループの方が規模的に勝っているため、村の自己防衛グループへの被害が深刻です。深刻な人権侵害の罪が問われないことによって暴力の連鎖に拍車がかかっている実態を受けて、国連などのサポートによる人権調査も行われているところです。2018年にマリ当局は20以上の捜査を開始し、これまで100人以上の狩猟民グループのメンバーが逮捕されました。しかし、いずれのケースも裁判や告訴には繋がっていません。また、武装グループによる学校の校長や教師などへの脅しにより、多くの学校は閉鎖に追い込まれています。2019年3月の時点でも。4698ある学校のうち866が閉鎖中で、およそ11万7千人の子どもが影響を受けています。フラニ民に対するこのような状況が悪化したり、隣国へ広がるのを防ぐためにも、MINUSMAは最善を尽くしています。2018年には、マリ国内で400以上の地域や場所を訪れ、100以上の事実調査ミッションによる調査が行なわれました。

国連平和活動局(DPO

DPO代表からは、人権活動における挑戦や困難が共有されました。人権的な目標を達成するのは、複雑で困難で骨の折れる仕事です。一言でいうと、常に挫折感を味わっています。主な理由にはまず、平和活動を展開する環境自体がすでに困難で複雑であることです。ある国の平和活動ミッションを国連安保理が認定し、いざ平和活動を始める頃は、自滅・滅亡的な状況や事柄がすでに根付いているからです。紛争の再勃発の不安、武装グループや武器の問題、政府内の争いや腐敗、貧困、開発問題、など課題は数えきれません。次に、人権に関する理解や知識の欠如が原因で、人権に対する不健全な態度や無意識のバイアスが定着しています。現地のコミュニティや当局の人たちだけでなく、DPOのシステム内やプロセス内の関係者も含まれます。政治や平和活動からの視点が重んじられ、人権が軽んじられたり拒まれたりすることは稀ではありません。各国政府には、安保理決議などを通してDPOの活動を支持してもらう必要があります。人権活動の分野で理想的な環境などありません。この分野の人権エキスパートを信頼し、彼らの勇気や信念に希望を託すしかないのです。

終わりに

今回説明のあった3つのミッションの例を取るだけでも、紛争中・紛争後の社会はどれだけ多くの課題と直面しているかがわかります。そして、平和活動の中に人権視野を取り入れる重要さと共に困難さも共有されました。人権に関する知識の欠如や、人権に対する無関心さは、人権侵害を生み出す原因にもなります。子ども兵士のリクルート、武器として行われる女性へのレイプ、不公平な裁判による死刑。これらが起こった国や地域で、国際的人権スタンダードがもっと広く浸透していたら、このような人権侵害や犯罪の半分でも防げたかもしれません。残念ながら、国際社会で当然とされているルールや基準は、一定の国や地域ではまだ根付いてないのが現状です。人権侵害に光を当て、国際条約や規約に反する行為に対して声を上げ続けることで、少しでも多くの人を苦しみから救えたら。そんな願いを込めて、今後もヒューマンライツ・ナウは国境を超えた人権の保護と促進のために活動を続けていきます。