【プレスリリース】『ルイーズ・アルブール国連人権高等弁務官の訪日を機に、「人権外交」を標榜する日本が行なうべきこと』 (2007/1/24)

『ルイーズ・アルブール国連人権高等弁務官の訪日を機に、「人権外交」を標榜する日本が行なうべきこと』

人権高等弁務官への協力・財政貢献、人権問題に関するアジア諸国に対する働きかけなど、日本政府の自発的誓約の実行を期待して

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pressrelease070124.pdf【東京 2007年1月24日】

 今月25日(木曜日)から26日(金曜日)にかけて、ルイーズ・アルブール国連人権高等弁務官が外務省来賓として訪日する。アルブール氏の就任間もない2004年11月の訪日の後、2年という短期間のうちに再訪の運びとなったことは、外務省の国連人権高等弁務官事務所に対する積極的な関与の姿勢、そして国際社会全体における人権の保護・促進への貢献に対する日本の意欲と捉え、評価したい。

人権NGOヒューマンライツ・ナウ(本部東京)の事務局長 伊藤和子弁護士は「アルブール人権高等弁務官の再訪日を機会に、日本政府は、2007年度の重点外交政策とする『人権外交』を、単なる意欲表明に終わらせず、かけがえのない人権を侵害されている世界中の人々の権利を現実に保護できるものにしていくべきだ。」と呼びかけた。

より具体的には、「近隣アジア諸国に対する人権対話・人権外交を強化すること、人権高等弁務官事務所の任意的拠出金に対するトップ10拠出国に復帰すること、国内の人権状況を国連人権諸機関の勧告に従って改善するとともに、人権諸条約の個人通報制度(国連諸機関に対する個人の人権救済申立)を受け入れることを特に求める。」とした。

外務省は、17日(水曜日)、アルブール高等弁務官の訪日を発表し、本訪日において、「人権分野における国連の改革」そして「北朝鮮を含む国際社会における人権問題の対応」について意見交換を行い、国連人権高等弁務官事務所との「協力関係がより一層強化」されると期待しているとした。

日本は、昨年設立された国連人権理事会の理事国として、より積極的に人権を推進し、国連人権高等弁務官の活動に協力することが望まれる。日本は、国連人権理事会の選挙に際し、自発的誓約(voluntary pledge)を行った。
(参照:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken_r/koken.html
同誓約で、日本は、理事国として、大規模かつ組織的な人権侵害を含む人権侵害に対処すると公約した。日本には、人権理事会の公正で効果的な活動を促すとともに、とりわけ近隣のアジア諸国に対して人権の保護・促進に積極的に取り組むよう働きかけることなどを通じて、自発的誓約を実現するよう期待する。

上記自発的誓約には、日本が、約10カ国と人権対話を行っていることが指摘され、人権高等弁務官やNGOと協力していくという誓約も記載されている。ただし、この人権対話が、現実にかけがえのない人権を侵害されている被害者の現状の改善にどの程度役立っているのかは、明らかでない。日本政府は、この人権対話が、人々のより実質的な人権の享受に結びつくよう、人権高等弁務官やNGOとより緊密に協力し、戦略的にこれを行うべきであろう。

また、日本政府は、今回の訪問で「北朝鮮を含む国際社会における人権問題の対応」を協議するとしている。北朝鮮の人権状況が極めて深刻であることは論を待たないが、さらに、ビルマ、カンボジア、フィリピンをはじめ、日本との関係が深い国にも深刻な人権侵害が存在している。そうした国々における人権状況についても、被害を止めるための真摯な協議を、いっそう積極的かつ緊密に行うべきである。また、北朝鮮の人権状況の改善のためには、人権高等弁務官事務所を含む国際機関・NGOと連携し、真に有効な方策を検討していくことが重要であるが、同時に、同国への対応が、日本に在住する朝鮮の人々の人権や、北朝鮮に居住する人々の食糧・生存への権利を含む根本的な人権を損なう結果をもたらすものであってはならない。

さらに、日本は上記自発的誓約で、「各条約体と十分に協力する」と公約した。しかし、この点は、今まで日本政府の行動は十分といえない。日本は、すでに、自由権規約委員会、社会権規約委員会、人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会から、各政府報告書審査において、懸念事項と勧告を受けているが、その多くは未だに改善されていない。たとえば、自由権規約委員会の第4回政府報告書審査(1998年11月CCPR/C/79/Add.102)では、委員会は、「第3回報告の検討の後に発せられた勧告が大部分履行されていないことを、遺憾に思う」とした。本件自発的誓約後の審査でもそのような指摘がなされないよう、日本政府は、各条約機関の勧告を誠実に受け止め、その実施に全力をあげるべきである。また、人権諸条約の個人通報制度をいずれも受け入れていない点も重大な課題として積み残されており、人権外交を標榜する2007年度中の対応が強く望まれる。

最後に、日本政府は、上記自発的誓約で、国連人権高等弁務官事務所との「協力関係」を「より一層強化」すると公約するが、この数年、これに反する動きもあり、思い切った方向転換が必要になる。人権高等弁務官に対する財政貢献が年々減ってきたからだ。これには、アルブール弁務官も、今月、共同通信とのインタビュー(参考:http://asia.news.yahoo.com/070117/kyodo/d8mn6la81.html参考元の削除によりリンク切れ)に答えて、「日本は、従前は当事務所にとって常に重要なドナー国でした。」「日本が、人権課題について表明している関心及びコミットメントのレベルまで、目に見える形での貢献をしてくれることは大変重要です」と述べた。

麻生太郎外務大臣は、昨年11月30日に、人権尊重などを重視する外交を行うと宣言した。また、外務省は、2007年度の重点外交政策の一つを人権外交とし、既述のとおり、国連人権理事会での自発的誓約でも人権高等弁務官事務所を支援することを表明している。しかし、そうした決意表明とは裏腹に、2000年には自発的拠出金に1,624,000米ドルを拠出してトップ10ドナーの1つだった日本が、その後2001年は812,000米ドルと拠出を半減させた。さらに、2004年、2005年、2006年は、その拠出は2000年の10分の1程度まで激減して、各166,397米ドル(21位)、166,397米ドル(20位)、160,396米ドル(20位)となってしまった。いずれも自発的拠出金の0.2%程度に過ぎない。人権高等弁務官が、世界中で果たしている重要な役割は、各加盟国の支援があってこそ成り立つ。日本は、今回のアルブール高等弁務官の再訪の際には、その決意表明に見合った支援を行う旨伝え、2008年には少なくともトップ10のドナーに戻る努力をするよう期待する。

国際社会の中で、日本は、長年、経済大国として認識されてきた。しかし、近年は、人道分野での貢献も目立ってきた。ヒューマンライツ・ナウはこれを歓迎する。しかし、人道危機はなぜ起きるのか。日本は、人道問題がおきる原因、すなわち人権の侵害を解決することでも、世界に貢献できるはずである。

事務局長伊藤和子弁護士は「日本は、将来、人権面で国際社会をリードする国になってよい。アルブール人権高等弁務官の訪日がその歩みを加速する一歩となることを期待する。」と述べた。さらに、「そのためには、まず、日本は、財政面も含め、国連人権高等弁務官が世界各国で人権状況改善の努力をするに際してより有意義に協力・支援すること、そして、国連人権理事会の機能強化のために、とりわけアジア諸国への働きかけなどが必要だ。日本の国連人権理事会の理事国としての現在の任期は2008年までだが、その間に人権理事会選挙の際に公約した自発的誓約を着々と実施に移していくべきだ。」と述べた。