【声明】カンボジアの民主主義の危機:カンボジア政府による重大な人権蹂躙に抗議し、弾圧の即時停止、国際社会の強い関与を要請する。

ヒューマンライツ・ナウは本日2018年01月31日、声明「カンボジアの民主主義の危機:カンボジア政府による重大な人権蹂躙に抗議し、弾圧の即時停止、国際社会の強い関与を要請する。」を公表しました。

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カンボジアの民主主義の危機:カンボジア政府による重大な人権蹂躙に抗議し、弾圧の即時停止、国際社会の強い関与を要請する。

 

1.カンボジアの基本的人権は、全ての批判を抑えようとするカンボジア政府によって侵害されている

2018年7月の総選挙を控え、カンボジア政府はこの一年間、政敵、ジャーナリスト、人権擁護者、NGO職員、活動家などを対象として、事実上全ての批判的言論に対する広範で破壊的な弾圧を行っている。これらの弾圧は、恣意的な逮捕、政敵や活動家の継続的な監視、主要な野党やNGO、メディアの解体などを含む深刻な人権侵害に該当する。

これらは、カンボジアがパリ和平協定締結後、まがりなりにも前提としてきた基本的人権、とりわけ集会、結社、表現の自由をことごとく蹂躙する重大な人権侵害であり、カンボジアの民主主義を重大な危機に陥れるものである。政権に批判的な主要な政党、メディア、市民組織をことごとく弾圧し、市民の人権を抑圧したなかで、民主的な総選挙を実施することは不可能である。

東京に拠点を置く人権NGOであるヒューマンライツ・ナウは、一連の人権侵害の深刻さにかつてない重大な懸念を表明するとともに、カンボジア政府に対して、野党やNGO、メディア、活動家などに対する弾圧を直ちに停止するよう求める。同時に国際社会および各国政府に対し、事態打開のための行動を呼びかける。

 

2.政敵への迫害

カンボジア政府による政府批判弾圧は、2017年11月16日に最高レベルの衝撃的なものにまで達した。政府に示唆を受けた最高裁判所が、主要な野党であるカンボジア救国党(CNRP)を解体したのだ。理由は、CNRPが躍進した2017年の地方選挙後に政府の転覆を図ったからだと伝えられている。このような政党の不当な解体は、自由権規約とカンボジア憲法の下で保障された人々の結社の権利に対する深刻な侵害であり、到底許されるものではない。

ところが、CNRPの解体以来、政府はCNRPの元指導者やメンバー、支持者に対する迫害や嫌がらせを継続している。2017年の11月23日には、首相が、2013年の平和的示威活動においてサム・ランシー氏とケム・ソカ氏が「新政府を組織する」ことを主張したことを受けて、彼らを殺害しておくべきであったと主張し、繰り返すように首相は、もし人々が地方選挙の結果に抗議した場合には「100から200人を抹殺する」として、超法規的に殺害することを示唆した。[1]

CNPRの党首のケム・ソカ氏は、9月3日に国家反逆罪で逮捕された。これは懲役30年の罪にあたり、依然として裁判前の拘留の状態におかれたままである。[2]この逮捕は無令状で行われたと報道されており、また憲法で保障された議員の不逮捕特権も無視されている状態である。さらに、亡命している元党首のサム・ランシー氏は、首相に対する名誉棄損その他の罪により、2017年12月29日にカンボジアの裁判所に100万ドルの罰金の支払いを命じられた。[3]

元CNPRの党員は5年間の政治活動禁止処分が科され、[4]汚職、反逆、暴行といった罪で訴追を受け、また、資金調達を公開するか、投獄されるかの選択を迫られ、[5]資金調達に対する警察の捜査がなされたり、資金の没収あるいは制限、パスポートが無効にされるといった措置を受けている。[6] 地方のCNRP幹部も、警察による監視、捜査、恣意的な訴追などを含む政府の脅迫により、CPPに移るよう迫られている。[7]

 

3.市民やメディアへの弾圧

政府の攻撃は、批判的な市民やメディアの言論にも及んでいる。

2017年7月、内務省は選挙監視グループSituation Roomの活動停止を命令し、[8]自由な選挙を実現するための監視活動は事実上困難となった。

政府は2017年9月に長年にわたり活動を続けてきたメディアである新聞カンボジア・デイリー紙と、Radio Free Asiaを、税法違反等を理由に閉鎖した。[9] 2017年11月、ジャーナリストのイェン・ソテリン氏とウオン・コヒン氏は閉鎖されたRadio Free Asia向けにニュースを作成したとして警察から拘束された。[10]さらに政府は、2017年末までに、ボイス・オブ・デモクラシー、ボイス・オブ・アメリカを含む少なくとも19のラジオ局を閉鎖した。放送時間の申告を怠ったからであるという理由だが、解散は独立系の局を標的にしたものであった。[11]

政府はさらに、かねてより国際社会から国際人権法に反するとの批判を受けてきた結社及びNGOに関する法律(LANGO)を適用して、National Democratic Instituteなどの外国に支援されている批判的なNGOを2017年8月に解散した。主だった職員は政府転覆を企てたとして告発され、外国人職員は国外退去処分が科された。[12]

NGOマザー・ネイチャーに所属する環境活動家2名は、正当な環境調査活動を実施したことを理由に2017年8月、同様に警察に逮捕され、その後扇動罪等で訴追され、NGOは9月に解散させられた。[13]2名の活動かは2018年1月26日に有罪判決を受けた。[14]

LANGOの下では、政府は2017年9月に、土地の権利の保護活動をしていたNGOエクイタブル・カンボジアの認可を停止し、また、11月には元CNPRの党首ケム・ソカによって設立された、土地、教育、性別などの権利を擁護するカンボジア人権センター(Cambodian Center for Human Rights)に対して捜査を行った。[15] 2018年1月4日には、人権NGO CENTRALの事務局長モエウン・トラ事務局長をはじめ3人のNGOリーダーが、2016年7月に暗殺された政治評論家ケム・レイ氏の葬儀での香典を着服したとして、同氏の遺族からは何ら不服が出ていないのにもかかわらず、信用棄損の罪で起訴された。[16]

 

4.カンボジア政府は早急に批判の弾圧を中止し、人権を尊重せよ

ヒューマンライツ・ナウは、カンボジア政府の政敵やNGO、ジャーナリスト、活動家に対する、かつてない規模の重大な迫害や弾圧に対し、強く抗議する。

一連の行為はどれひとつをとっても、集会、結社、表現の自由に対する重大かつ明白な侵害であり、世界人権宣言、カンボジアが批准する国際人権条約、さらにカンボジア憲法を蹂躙するものであることは明白である。政府に批判的な組織をすべて弾圧し、破壊する一連の行為は、民主主義に明らかな破壊である。カンボジアの民主主義は内戦終結後最大の危機に直面していると言っても過言ではない。一連の事態は、2017年9月の国連人権理事会の決議を完全に無視し、国際社会の懸念を完全に無視して敢行されている点も重大である。このままでは2018年に自由で公正な総選挙が実現することは絶望的である。

 

ヒューマンライツ・ナウは、以下のことを緊急に求める。

1)カンボジア政府に対して

批判的言論に対する弾圧を直ちにやめるべきこと、具体的には、恣意的に逮捕された人々を釈放すること、批判的なNGOや活動家に対する不当な権利の制限を中止すること、不当に解散させられたNGO、メディア、政党を復活させること、人権に関する国内法、国際法上の義務を尊重すること、LANGOおよび2017年改正政党法を国際人権法上の義務に即して全面的に改正すること、来る総選挙が自由かつ公正で、全ての国民を代表するものになること、解散を命じた野党を含むすべての政党の立候補を確保するよう求める。

2)各国政府に対して

  • カンボジア政府に対し、基本的人権の重大な侵害行為を停止させるために、対話による解決の模索にとどまらず、援助の停止その他の制裁を実施する等の強い措置を検討するよう求める。
  • 日本政府に対しては特に、カンボジアが、CNPRを含む野党の参加が保証され、政治活動家やメディアへの規制や弾圧の停止を確約し、公正で自由な選挙を保証するまで、2018年選挙に関するカンボジア国立選挙委員会への支援を停止することを要求する。

3)国連事務総長および国連人権高等弁務官等に対して

カンボジアの民主主義の破壊と市民社会スペースの縮小が極めて深刻であることに鑑み、事態打開のために国連事務総長特別代理の選任を含むあらゆる措置を検討し実行すること。

4)国連人権理事会に対し

2017年9月(36会期)の国連人権理事会のカンボジア決議が完全に無視されていることに鑑み、37会期においてカンボジアの人権状況に関し特別に討議の機会を設け、国際社会として人権弾圧を停止するよう求める決議を採択すること。

 

[1] Chheng & Chen, “Rainsy and Sokha ‘would already be dead’: PM “, Phnom Penh Post, 23 Nov. 2017, http://www.phnompenhpost.com/national-politics/rainsy-and-sokha-would-already-be-dead-pm.

[2] RFA Khmer Service, “Cambodia Opposition Chief Kem Sokha Calls on Court to Drop ‘Treason’ Charges”, Radio Free Asia, 14 Dec. 2017, http://www.rfa.org/english/news/cambodia/charges-12142017170449.html.

[3] Chansy Chhorn, “Cambodia’s Sam Rainsy found guilty of defamation, ordered to pay $1 million”, Reuters, 29 Dec. 2017, https://www.reuters.com/article/us-cambodia-politics/cambodias-sam-rainsy-found-guilty-of-defamation-ordered-to-pay-1-million-idUSKBN1EN0H7?il=0.

[4] Sokhean, et al, “‘Death of democracy’: CNRP dissolved by Supreme Court ruling”, Phnom Penh Post, 17 Nov. 2017, http://www.phnompenhpost.com/national-post-depth-politics/death-democracy-cnrp-dissolved-supreme-court-ruling. The ban affects 188 former CNRP members.

[5] Pech Sotheary, “Jail time threat over disclosure of CNRP assets”, Khmer Times, 18 Dec. 2017, http://www.khmertimeskh.com/5096478/jail-time-threat-disclosure-cnrp-assets/.

[6] Mech Dara, “National Police ordered to analyse banned opposition members’ finances“, Phnom Penh Post, 9 Jan. 2018, http://www.phnompenhpost.com/national-politics/national-police-ordered-analyse-banned-opposition-members-finances.

[7] Narin & Wallace, “The Reluctant Defectors of Cambodia”, VOA News, 16 Dec. 2017, https://www.voanews.com/a/reluctant-defectors-cambodia/4167141.html.

[8] https://www.cambodiadaily.com/news/interior-ministry-issues-stop-order-to-situation-room-ngos-132133/

[9] Richard C. Paddock, “The Cambodia Daily to Close (After Chasing One Last Big Story)”, New York Times, 3 Sept. 2017, https://www.nytimes.com/2017/09/03/world/asia/cambodia-daily-newspaper.html.

[10] The Cambodia Daily, “Two Former Radio Free Asia Journalists Detained in Phnom Penh”, 15 Nov. 2017, https://www.cambodiadaily.com/topstory/two-former-radio-free-asia-journalists-detained-phnom-penh-134378/.

[11] Dara & Baliga, “Government closes 15 radio stations “, Phnom Penh Post, 25 Aug. 2017,  http://www.phnompenhpost.com/national/government-closes-15-radio-stations.

[12] Anantha Baliga, “Ministry shutters NDI for Lango violations as US Embassy hits back”, Phnom Penh Post, 24 Aug. 2017, http://www.phnompenhpost.com/national/ministry-shutters-ndi-lango-violations-us-embassy-hits-back.

[13] Dara & Baliga, “Environmental NGO Mother Nature dissolved“, 18 Sept. 2017, http://www.phnompenhpost.com/national/environmental-ngo-mother-nature-dissolved; LICADHO, “CSOs Call for Immediate Release of Mother Nature Activists”

[14] http://www.licadho-cambodia.org/.

[15]  Ben Sokhean, “Breaking: PM Says Prominent Human Rights NGO ‘Must Close’”, 26 Nov. 2017 http://www.phnompenhpost.com/national-politics/breaking-pm-says-prominent-human-rights-ngo-must-close.

[16] http://www.licadho-cambodia.org/pressrelease.php?perm=430.